文進堂 畑製筆所

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道具のはなし1:100年の寸木


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皆さまへ


いつも応援してくださりありがとうございます。
今日は久しぶりにブログを書かせていただきます。


これから不定期で、筆の制作に使う道具について、少しづつお話していこうと考えております。


第一回目の今日は、寸木(すんぎ)」についてです。


「寸木」という道具はご存知ですか?

これは、筆づくりにおける定規の役割を果たしてくれます。

主に、この画像のように「寸切り(すんぎり)」と呼ばれる、毛の根元を切るときや

毛の長さを決める際に使われます。

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桜の木は日本各地にありますので、いつでも寸木をつくれるように思われるかもしれませんが、
実はこの寸木を道具として使用できるようになるまでには、途方もない年月と職人の情熱が注がれています。


まず、桜の木を伐採してから、皮を剥いで原木の状態で数十年寝かせます。

その後、寝かせた原木から正目(まさめ)の部分だけを選別して板状にして、最低10年以上寝かせます。

更に、寸木の幅にして寝かせていくと、曲がったり、反ったり割れたりします。
その中から厳選された真っ直ぐなものだけ、私たちが使う「寸木」になるのです。


そして、職人によってつくられた寸木は、私たちの手元に届いてから、更に寝かせます。
次の代の寸木を用意しておくのです。


私たちは、未だいない5代目のために、既に5代目用の寸木を手元で寝かせております。
このように寝かせることで、丈夫で縮まない、使い込むほどに手に馴染む道具になります。


寸木は大変高価なのですが、実は、今は寸木を制作する職人がいません。

現代の筆職人はプラスチックの材質の寸木を使っている方がほとんどで
このような長い間乾燥させて作られた寸木や寄せ板を使う職人はほんの僅かです。
(弊社は一般的なプラスチックの寸木はできるだけ使いたくないと考えております。
 極ヨリの毛等は大変繊細なため、毛が滑り、静電気が発生するためです。)


冒頭と下記写真の寸木は、畑義幸が68年間使っているものです。
伐採してから乾燥期間を含むと、すでに100年は経過している道具で、
今は亡き二代目の滿壽視が、義幸のために準備したものでした。

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弊社は職人同士で寸木を共有することはなく、他の道具もそうですが、
各々専用の道具があり、手に合うように道具を育てていっています。

滿壽視が亡くなった際には、彼が長年愛用した寸木も燃やして弔いました。



寸木をつくる職人は、代々材木を継承して作っていましたが、
ご高齢と同時に数十年寝かせた材料がなくなったため辞めるとご連絡をいただいたのは
もう随分昔のはなしです。


私たちは、五代目までの寸木を確保していますが、
その後のことを考えると、義幸、四代目・幸壯の道具を大切に継承していく必要があると考えています。


手間をかけてつくってくださった道具を使い、私たちも愛情を込めて筆を制作し、

その筆を愛用してくれる作家様がいらっしゃることは

道具をつくる職人も含めてとても幸せなことだと思います。


皆さま、ありがとうございます。


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