文進堂 畑製筆所

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【事例2】筆の修理:大字書・特大筆


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皆さまへ

いつもお世話になります。

久しぶりに修理ブログを書きたいと思います。

約1年前。

ある先生から2本筆をお預かりしました。

「毛が抜けてしまって使えない。」
「けれど大事にしていて捨てるのは勿体ないので1本に仕立てられないでしょうか?」

とご相談いただきました。

この筆は大字書で使うような大きな筆、内径35mm×出穂190mmで、毛質はモンゴルです。


(お預かりした時点の写真は撮影しておりません。申し訳ありません。)

モンゴルは馬なのですが、柔らかいため
柔軟さを活かした線を表現できるのが特徴です。

(やはり羊毛の柔軟で粘りのある筆致とは異なるのですが、
 現在羊毛では大字書を書作できる長さの毛が希少で価格も高価なため、
 天尾よりも柔らかい毛を求めるとなると、モンゴルになります。
 モンゴルを“羊毛”銘をつけて販売されている筆もありますのでお気をつけください。)

しかし、モンゴルはその特性上、どうしても耐久性が低く腐っています。

今回お預かりした筆は、15~20年くらいお使いになられており、
畑義幸も「モンゴルをこがぁに(こんなに)綺麗に長く使う先生は久しぶりじゃわ」
と感動していました。

普段であれば、他社製の筆は修理をお断りしているのですが、
筆を拝見すると大切にお使いになられていることが伝わり
特に、先の状態が購入されたときよりも育って良くなっているため、
修理をお請けさせていただくことになりました。

修理内容は、2本の筆の穂首(毛の部分)を外して毛の状態を見て墨を抜き、
良い毛を選別して、練り混ぜをして1本に仕立てます。

※冒頭の写真は、選別の結果使えなかった毛です。


まず、軸がそのまま使える状態かを確認しましたが
今回の場合はそれが不可能たなめ、軸を壊して穂首を抜きました。
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毛が抜ける原因は、やはり根腐りでした。
可能なかぎり長さを確保するためにギリギリのところで腐っている根元を切ります。
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やはり、真っ黒に墨が溜まって腐っています。
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腐っている箇所を全て取り除きます。
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この後、時間がかかる作業です。
状態によってかかる日数が異なります。
毛から墨を抜いて、使える毛を選別作業に入ります。

(弊社は科学的なものは一切使用せず、井戸水のみで墨抜きを含む作業を行います。
 余談になりますが、井戸水は毎年水質を検査しており水質に問題なく、
 検査員の方からは「ミネラルウォーターより綺麗です」とおっしゃっていただいております。)

選別した後、たくさんの工程を経て、穂首を仕立てます。
また、今回は仕立てる穂首の太さに合わせて軸を別注で制作します。

そして、筆が新たに生まれ変わります。
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持ち主の先生が大切に育ててこられた毛を活かし、美しい筆になりました。紅溜塗の筆管です。
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使える毛だけを選別し、ギリギリまで長さを確保した結果、内径34mm×出穂170mmを確保することができました。
元の寸法は内径35mm×出穂190mmです。
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一度ご使用になられた筆を修理するのは、新しく仕立てるのとはまた違う時間と手間がかかります。
墨がついているため、作業場にある毛を全て片付けて細心の注意を払って行い、
墨を落とすだけでも状態によっては2週間以上かかかることもあり、毎日ケアを行います。

今回の修理費用は軸を新調したこともあり、申し訳ないことにご購入当時の価格と同じくらいになったのではないかと思いますが、(修理費用は事前にお見積りをお伝えします)
それでも、何年もかけて育ててこられた毛は他には変えられないのだと感じます。

以前は150年前の筆を修理してほしいというご依頼もありお請けさせていただいたこともございました。

もしも、大切にされてこられた筆に「もう一度息を吹き込みたい」という思いがございましたらご相談ください。
状態を確認して、生まれ変わる可能性にできる限りの力を注ぎます。

いつもありがとうございます。

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※全ての筆を修理できるわけではございません。
 十分に使ってもらって喜び、寿命を全うしている筆もございますので、その場合はお伝えいたします。