文進堂 畑製筆所

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稀な方にお会いしたエピソード


皆さまへ

東京でのおはなし。

上京する数日前にある方(仮名:斉藤さんとお呼びします)から
ホームページにお問い合わせをいただき
ちょうど東京滞在中だったこともありお会いする機会がありました。


斉藤さんは、数年前から畑義幸の筆を愛用なさっており、
その後もいろんなお店で当社の筆を探しておられたそうです。

そんな折、当社のホームページがオープンしたことをお知りになり、
直接オーダーしたいとご連絡をいただきました。


めずらしいことに、今回の東京出張には畑義幸が同行しました。
(基本的に職場から出ません。職人は手を動かすことが仕事、というポリシー。)


斉藤さんは34歳。

お話を聞くに、相当筆を研究されており、畑義幸も唸るほど。
文房四宝に精通されていらっしゃいました。


斉藤さんのオーダーは、古細微頂光鋒40年極上を筆を
深はめ(+5mm)にしてほしい、というオーダー。
(その他、オーダーもいただきました。)
久しぶりにそのようなオーダーをいただき、少し前の時代を懐古する。


その頃は先生方から


「いくらかかってもいいから深はめにしてくれ。その筆でいい作品を書く。」

と、特注で先生のご要望におこたえしてきました。


深はめにすると、穂首を深くはめた分、墨含みが良くなり弾力・筆圧が出て
先が効きます。
一方、出穂が短くなりますので
一定の出穂を確保するにはもともと長い毛が必要です。

もちろん長い毛はいくつかありますが、最高品質の長い毛は希少で高価です。

贅沢な仕立てを望んだ多くの先生方もすでに他界。


畑義幸も当時の先生方の御年になり、65歳。
時代は巡ります。


そんな中、斉藤さんのような審美眼を持った方に出逢えました。


「近年、市場が縮小するあまり、
売上欲しさに筆屋が間違ったことを言うところが増えて
それが常識のようになったけん、
ちゃんと筆を見極められる方が減った。」

「斉藤さんのような若い方がここまでの目を持っているのは驚いた。
今後30年、斉藤さんのような方には出逢えんかもしれんのぉ。」

と。


改めて、昔から今日まで当社を支えてくださっているお客様に心から感謝し、

そして、


"当社は正直な筆屋でありたい。"

と更に心に誓う一日でした。