川尻筆伝統工芸士 三代目・畑 義幸
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川尻筆づくりの工程(羊毛筆)

工程1.原毛の選別作業

羊毛の中の最高級品、顎下から胸の毛までの細光鋒とよばれる毛を微妙な違いを見分けながら更に数段階に分別し、 その中でも最上級の毛を原料として使用します。
品質を一定に保つため、作業は、晴れた日の午前中に、 南向きに行います。
同じ動物の毛でも、艶や毛先の状態、全体の形状など微妙に異なります。
この作業は、目と手触りだけで行われ、長年の経験と勘だけが頼りとなります。

工程2.毛組み

この原毛の選別の段階で、制作する筆の特性、 完成した状態をイメージし、1の毛から5の毛まで 使用する原料の性質、分量を考えながら選んでいきます。
筆づくりの設計図のようなものです。
筆の作り手の、最も経験とセンスが問われるところです。

工程3.煮沸

選別した原料を適当な量に取り分け、さらしに包み、 麻糸で縛って水に浸します。
両手で優しく籾みながら原料に水を浸み込ませ煮沸をします。
この作業により、毛の癖を取り除き、脂分を落としやすくします。

工程4.綿抜き

煮沸の後はしっかり毛を乾燥させ、綿抜きをします。
これは原毛の根元についている綿毛を、金櫛を使って取り除く作業です。

工程5.火のし

籾殻を焼いてつくった灰を毛にまぶし、火のしにかけます。
アイロンのように毛をまっすぐ伸ばす役割と、 油を溶かす役割があります。

工程6.灰もみ

油分が溶け出てきたら、熱が下がらないうちに鹿皮でさっと巻き、丹念に揉むことで油分を抜き取っていきます。

工程7.先寄せ

5段階(1の毛~5の毛)の原毛をそれぞれ、毛先の方向へそろえていきます。
一通り毛先がそろってきたところで、手の上に乗せ替え、 飛び出した毛を抜き取りしっかりと櫛をかけます。
先寄せは繰り返し櫛をかけた毛を、真鍮製の寄せ鋼の上に乗せ、桜の木でできた寄せ板にあてて 少しずつ毛先をそろえていきます。
全ての毛をきれいに寄せていくには、熟練した技術が必要であり、
寄せ板を打つ音でその職人の技量が分かる、とまで言われています。
この後、もう一度寄せ鋼の上に毛を戻し、繰り返し毛先を寄せていきます。

工程8.寸切り

先寄せした1の毛~5の毛に、それぞれ大きさの異なる寸木を添えて、根本の部分を切り落とします。

工程9.さらえ

この段階で、毛先の痛んだ無駄毛や逆さ毛を、ハンサシと呼ばれる歯の無い小刀で取り除きます。

工程10.毛混ぜ

この1の毛~5の毛までの毛を混ぜ合わせる作業に入ります。
束にした毛をゆっくりと水に浸します。
この毛の束にしっかりと櫛をかけ、無駄毛を取り除きながら 平たく形を整えてヒラメとよばれる状態をつくっていきます。

工程11.練り混ぜ

1の毛~5の毛まで同じようにヒラメができたら、それぞれ一定の分量に取り分けて重ね合わせて一枚のヒラメにしていきます。
これをハンサシで薄く引き伸ばして折りたたむように重ねます。
これを何度も繰り返すことにより、5段階の長さの違う毛を混ぜ合わせていきます。
これにより、筆の芯となるヒラメをすべて均一な状態に仕上げていきます。

工程12.さらえ

この段階でも、毛先の痛んだ無駄毛や逆さ毛を、ハンサシで取り除きます。

工程13.芯立て

芯をつくるための駒を選びます。
まず、ヒラメを一定の大きさに割っていきます。
これを駒にとおして胴回りをそろえて形を整えます。
次に指先や手で感触を確かめながら、芯の外側から中心部分までしっかりと無駄毛を取り除いていきます。
最後に芯を駒から外して篩(ふるい)に乗せて乾燥させます。

工程14.上毛巻き

芯の外側に、薄く引き伸ばした毛を巻き付けます。
上毛は、化粧毛とも呼ばれ、美しい艶のある毛が使われます。
芯を同じようにして作った上毛のヒラメを、櫛の目を利用して均等な大きさに取り分けます。
これを一つずつ薄く引き伸ばして左手に持ち、右手で芯にふ糊を付けて手の上で芯を転がして、上毛で巻き取っていきます。

工程15.さらえ

ここでも丁寧に無駄毛を取り除きます。この地道な作業の繰り返しがあって初めて、仕上がりの良い筆ができ上がります。細かく抜き取り、手で形を整えたら、篩(ふるい)に戻します。

工程16.焼き締め

乾燥させた穂の根元を麻糸でしっかりと縛り、熱したコテでさっと焼き固めます。焼き固めることで、穂の毛崩れや抜けを防いでいます。
一本ずつ糸から切り離し、櫛をかければ穂の完成となります。

工程17.繰り込み(軸入れ)

繰り込み台の上で小刀を押し当てた軸を、手のひらを使って回転させながら穂の太さに合わせて削っていきます。
穂を固定すれば、さばき筆の完成です。

工程18.のり固め

仕上げの“のり固め“は、まず、しっかりふ糊を穂先に含ませます。
軸の中の部分までふ糊が十分行きわたったら、一旦糊をしぼりとり仕上げ櫛をかけて毛並を整えていきます。
次に一方を固定した麻糸で穂を絞り、根本から毛先に向けて筆を回しながら絞り出すように余分なのりを搾り取ります。
最後に指先で形を整え、立てかけて一週間程度自然乾燥させれば完成です。

工程19.完成

川尻筆伝統工芸士

三代目・畑 義幸

昭和26年2月3日生

四代目・畑 幸壯

昭和62年9月11日生